ドイツかぶれの徒然

英語が嫌いで気づいたらこうなっていた。思い出したように更新するただの生存報告になりつつある

君の名は。 というより新海さんについて徒然

一昨日見て、昨日はほかの人の感想とか見る前に自分の感想を書いたのですが、その後いろんな人のネタバレ考察とかも見て思ったことをさらに記事にします。今回もネタバレはないはずです。けど、作品を見る前に読むようなおすすめ記事じゃないです。

てか、産経の夕刊にも載ってたし、意外なヒットすぎてレガシーメディアも慌てて取り上げ始めた感じ? いろいろ見ても、今作で初めて新海さんを知ったという人も多い様子。ポスト細田守って声にはさすがに噴飯。いや、新海さんが世界で注目され始めたのは細田さんと同時期かそれ以前ぐらいだからね?

 

「新海マジック」って言葉があるらしい。ただ、それを単に「ひたすら綺麗で幻想的な映像表現」という意味で使うのは何か違う気がする。それだけなら新海さんはただの画家ってことになっちゃう。

そうではなくて、それはおそらくアニメの持つ力を最大限に引き出すための手法。美麗な画は手段であって目的ではない。現実ではない世界を現実と錯覚させる、リアリティを極限まで高める魔術の一端。

逆に実写だと何かがリアルではないと「これは嘘だ」という冷静な声が脳内で沸き起こって感動もなにも残らないことが多い。

つまりアニメが多少荒唐無稽なストーリーでも(社会的にではなく、頭を錯覚させるという面で)許されるのは、これがアニメだということを心のどこかで思いつつも、そこに何かのリアルさを求めるから。

自分が好きなアニメって大体そういうところがあって、P.A.とかA-1(異論もあるかもだけど、ソ・ラ・ノ・ヲ・トが好きなのでいれてあります)とかが作る美麗で手の込んだ風景情景であることもあるし(凪あすの時も書いたっけ)、ガルパンなんかはとにかく戦車の描写に拘ればこそほかのリアルさ皆無の設定を吹き飛ばすリアリティがある。ユーフォは風景もだけど吹奏楽の音そのものが本物だし。

まどマギとかは違う手法で、ある程度リアルさから遠ざかった絵面や街並みによって現実味のない世界観を描きながら、ストーリーの力だけで視聴者を異世界に引き込んでくる。もしこれがもっと現実的な絵面だったら、「ンなこと起こるわけないだろー」と冷めてしまう人が多かったはず。(とはいえ、まどマギの背景って結構元ネタの風景がありまして、聖地巡礼しようとしたら世界の名建築巡りになるほどです。ベルリン中央駅も叛逆の物語に出てきますし。

話を新海作品に戻しましょう。この流れで今までの新海さんの作品を大別すると、以下の二つに分けられます。

リアルな背景美術で、物語がリアルじゃない路線:「ほしのこえ」「雲の向こう」「星を追うこども」「君の名は。

リアルな背景美術で、物語もリアル路線:「彼女と彼女の猫」「秒速」「言の葉の庭

なのに、東宝の戦略なのか新海さんの代表作として紹介されてるのは秒速と言の葉なんですよね。この二作だけ見て新海マジックと語るなら、単に綺麗な映像のことだと誤解するのかもしれない。

一方の前者ではほしのこえと雲の向こうの時は、美麗な背景映像に割と最初から宇宙船や塔といった異物が入っていて、違う世界での話だよと視聴者に予告する役目を果たしていました。星を追う~の時は、現実世界から異世界に行くことが明示されていましたし。しかしこうしたフィクション世界をリアルに感じさせるための道具として役割を果たしていたのが、美麗な背景美術だったわけです。

君の名はの場合、さらに一歩進んでいます。美麗で現実と見まがうばかりの東京と山村の風景で、「ああ、リアルな画だなぁ」と思った時にはもうあなたは洗脳されています。新海さんの術中にはまってしまっていて、もう現実と作中の世界を心の中では区別できなくなっているのです。

そこから始まる驚きの連続のストーリー展開に、多くの人が醒めることなく熱中して没頭してしまう理由、それが視聴者にリアルでないものをリアルと錯覚させる徹底的な美術、「新海マジック」の真骨頂だと思います。

 

別の話に飛びますが、宮崎駿の後継者とか騒がれてる点について別の視点から反論を。

実は日本のアニメスタジオって色々ありますが、ほとんどすべてがその系譜をさかのぼると東映アニメーションにつながるんですよね。まぁ東映出身の手塚治虫が作った虫プロの系譜が半分くらいを占めるんですが。

けど、新海さんはその系譜に連なってないんです。ゲーム会社でムービーを作ってて、そこから自主制作アニメを初めて。だからアニメの作り方もほかの人と違うらしいんですよね。

そしてゲーム会社ってのもファルコム時代のことはメディアで若干取り上げられていましたが、さすがにアダルトゲームのムービーも作ってたというと、今作で新海さんを知った人は驚くのかな?

でもこれって結構大事なことだと思うんです。日本アニメって長い時間徒弟制度じみたやり方で続いてきたから、伝統の型みたいなのができてて、もちろんそれがなければ見る側も「お約束」を理解できなくてついていけなくなるのですが、でもその枠を大きくは越えられないってところがある。

一方でアダルトゲームというのは、低俗なものもたくさんありますけど、表現の規制がないフォーマットであるという側面もあって型破りな作品がたくさんあったんですよね。新海さんがゲームのシナリオを書いていたわけではないけど、その業界の空気をまとっているのは確かだと思います。

虚淵さんも、麻枝さんも、新作のたびに型を破ってくれるアダルトゲーム業界出身の方がほかにもいらっしゃいますし、そういう意味でもアニメ業界生え抜きの人と比較するのはおかしい話だと思うんです。

ってか、efを改めて思い出してみたら実はここからも影響を受けたんじゃ? って気が。「おまえは誰だ?」ってセリフもありますし……

 

それとこんなタイトルのブログなんで、ちょっとこのことも紹介しとかないと。ここからはネタバレ成分もあるかな? むしろ見てなきゃなんのことかわからないと思うけど。

ネルトリンガー・リース - Wikipedia

実在する隕石クレーター地形として有名なドイツの盆地ですね。この中にあるネルトリンゲンは進撃の巨人の舞台としても有名。

日本でも隕石クレーター地形はあるといわれてましたが、そうだと証明されたのは実はここだけです。

御池山クレーター - Wikipedia

これが監督の出身県である長野県だったことと、2013年にチェリャビンスクに隕石が落ちた事件はもちろん今作のモチーフになっているはずです。

まぁ、その辺科学考証の目線で突っ込みだすとかなり突っ込みが追い付かないんですけどね……

それを見ている間は忘れさせてくれるのが、アニメの力、そして新海さんのマジックなんですよね。