ドイツかぶれの徒然

英語が嫌いで気づいたらこうなっていた。思い出したように更新するただの生存報告になりつつある

改めて「君の名は。」の大ヒットを考える。

ワケガワカラナイヨ
なんか三週目の土日も前週越えだとか、二位以下と動員数が一桁違うとか、意味不明なヒットを続けている『君の名は。』。今日あたり『シン・ゴジラ』の興行収入を越えるとか。どうしてこうなった……
まぁ、自分はシンゴジのほうはどうせテレビでやるだろうと思って見に行ってないんですけどね。
ということで、以下は専門家でもない新海信者による、この現実をどう認識したらいいのかうだうだ理屈を捏ねた過程の記録です。

 

1.なんで特撮とアニメがワンツーフィニッシュなのか
以前までは、「なぜ新海作品がいきなりここまでウケたのか」と考えていたのですが、ここまでくるともうなんか違いますね。この問いから始める必要があるかと思います。
これは主に技術の進歩の側面から言えると思います。一方には家庭用のテレビがどんどん性能が上がって、映画館で見る必要性がどんどん薄れて来たこと。これはもう前からなわけで、だんだん映画全体が低迷していくのも仕方ない話。
他方その中でわざわざ映画館に映画を見に行く理由って、「作品世界への没入感」を求めてるからだと思うんですよね。特撮技術とアニメ技術は年々進化していて、その需要に応える力を磨いてる。(特撮のない)実写映画なんてジャンル、私にはもう業界のしがらみと惰性だけで続いてるようにしか見えません。
創作物である以上はその作品世界は何がしか虚構であるわけで、そこへの没入感を高めるためには、画面いっぱいを虚構で埋め尽くさなければならない。しかし同時に現実感を持たせなければならない。特撮だと前者に苦労があり、アニメだと後者に苦労があることになります。
新海作品が映画として高く評価されるのは、定評ある美術と音声で極めて現実感の高い虚構世界を作り上げるからと言えるでしょう。シンゴジ見てないけど、そっちも虚構のディティールに拘ってることは聞こえてきますし。
ちなみに、同じ論法で時代劇にはまだ未来があると私は思ってますよ。『武士の家計簿』とかの路線が好きですね。あとは虚構の量と現実感のバランスをどうとるか、です。

 

2.なんでこんなに想定外のヒットなのか
幾つか考えられるんだけど、一つにはやっぱり宣伝。それなしには前作からのこれほどの跳ねっぷりは説明できない。けど、他の作品と比べてそう宣伝が多かったとも思えないので(まだテレビでCM見てないんですよ。天然水は見たけど)、ここまでのヒットになった要因は他に求められなければなりません。
よく言われているのは中高生の口コミ効果の絶大さでしょう。で、それを説明するのにさらに二要因を考える必要があって、その一つは語りたくなる、お勧めしたくなるストーリーの妙。まぁそこは他のネタバレ記事に譲るとしてですよ、もう一つは若年層の総ライトオタク化。少し下の世代の話を聞くと、信じられないほどみんな深夜アニメ見てるんですよ。ジブリ亡き後()の世代に中高生やってた彼らは、子供向けアニメの次に見るものがいきなり『とある』『Fate』『物語』などのシリーズだったりする。
けど中高生は深夜アニメの主な収益源であるDVD購入には手が届かないから、商売上の数字には現れてこない。だから東宝の中の人もここまで巨大な潜在需要があったことには気づいてなかったはずです。今後この層狙いで商売するアニメは増えるだろうけど、さて、中高生を子供と馬鹿にせずに満足させた上で、口コミを爆発させるだけのものが作れるかどうか。

 

3.ほかの人でもこの仕組は真似できるのか
できない(断言
口コミが爆発するにも起爆剤がいるわけで、そこは新海さんのコツコツ積み上げてきた名声が功を奏したとしか。新作の特報が出た時点で地球の裏側で話題になる映画監督、今の日本には他にいないんじゃ? (パヤオが復帰したらそりゃ話題になるだろうけど)
今までは宣伝されてなかったから大ヒットしなかったという言い方もできるけど、逆に言うとゴリ押し宣伝や大ヒット作もないのに、なんだかんだと知名度がじわじわ上がってきていたのがすごいと思う。
やはり『秒速5センチメートル』が9年前のインディーズアニメにも関わらず未だに各所で話題になるのはすごい。そしてそれは、ニコ動でエンコテスト用動画扱いされていたように他の追随を許さない破格の美麗さと、核クラスの鬱爆弾として知られる破壊力あるストーリーを兼ね備えているから。とにかくこの二点では突出して並ぶものがない作品でしょうよ。
秒速は絶対、劇場で見たなんていう極小数の人より後からネット動画だとかレンタルだとかで見た人のほうが多いと思う。ついでに、秒速って『君の名は。』で新海さんを知った人にはとりあえずはおすすめできない。けど、『君の名は。』より後に秒速を見た人の感想ってものが一度見たかったりする。例外なく精神破壊されてそうだけど……
何しろこれほど売れない、けど長年にわたって話題に上るような強烈な作品が出てきた背景には商売抜きで新海さんに好き勝手作らせていたコミックス・ウェーブminoriの存在が大きいと思う。にも関わらず、minoriと決別したあと(※)の『星を追う子ども』は少なくとも商売的には大失敗だった。結局、足フェチ映画『言の葉の庭』でやりたいことをやる路線に戻ってきたけど、数年遠回りして「知る人ぞ知る」だった状態が長続きしたことが、今回の人気大爆発につながったんだろうなぁとも思う。
ここまで揃っていたら、やっぱりこの大ヒットも必然だったのかな……って気になります。まぁ関係者含め、誰も予想していないことではあったでしょうが。まぁ誰も真似できないですしするべきじゃないですよ。

 

なんたって映画一本使って口噛み酒フェチとか言う新ジャンルを日本中に布教してしまったのですから……

 

※『星を追う子ども』の制作協力にminoriの名前がありますので、この点は言いすぎたかもしれない。ちなみに酒井伸和さんの名前もあります。とはいえ、秒速までとは関係性が大きく変わったのは事実かと思います。