ドイツかぶれの徒然

英語が嫌いで気づいたらこうなっていた。思い出したように更新するただの生存報告になりつつある

ドイツの鉄道信号について(1)

 

今回から多分三回シリーズでドイツの鉄道信号について書いていこうと思います。前々回書いた事故の話とはあまり関係ありません。まぁ一応つながりは出ますが。
もともとTF-Wikiのほうでドイツの鉄道信号について解説してくれと頼まれたのがきっかけではありますが、前から謎に思っていたので調べて書こうとしたら到底ゲームと関係ない話になりそうだったのでこのブログを作りました。
ただし全体像はあまりにも膨大になりすぎるので、やっぱりTFのMODに関わる部分について書いていくと思います。
日本語での先行情報は個人掲示板の過去ログか、個人ブログ一件に少しあったくらいしか見つけられていません。それどころかわからなくて困っている人の書き込みを幾つかみつけたので、多分ネット上で日本語では初めての内容になるんじゃないかな……と思っています。
基本的に日本の鉄道信号については知識が有ることが前提、写真やイラストは特記無き場合著者撮影・作成、自分で翻訳した単語は最初に原語を続けて書きます。

1.H/V信号システム

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写真はニュルンベルクのDB-Museumの別館前に展示されている機械式信号機Formsignaleです。奥にある背の高い方はいわゆる腕木式信号機で、出発・場内・閉塞といった防護区間を持つ主信号機Hauptsignalに使われます。これが停止現示なら列車は停止、進行現示なら列車は進行するのは万国共通ですね。なぜ腕木が二本あるのか? とかは後回しです。

注目して欲しいのはその手前にある背の低い(とはいえ、かなり巨大です)円形版の信号機。これがドイツ語圏の鉄道信号の特徴となる前置信号機Vorsignalです。HauptsignalとVorsignalが一対となって設置されることによって構成される信号システム、これをH/V信号システムH/V-Signalsystemと呼びます。1924年から使われ始めた、ドイツの鉄道信号を語る上で基本となるシステムです。

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(ドイツ語版Wikipediaより転載)
上図はこの二者が実際はどう配置されるかを示しています。列車は左から進行し、緑色の部分は通常のブレーキ距離、橙色の部分の余裕を加味して、例えば160km/hで走行する路線の場合は主信号機の1km手前に前置信号機が置かれるようです。

日本より高速運転で先んじていたドイツでは、信号の視認距離に入ってからブレーキを掛けても停止できなくなるという問題にも先にぶちあたりました。日本では同時期に600m条項を作って最高速度を抑えるという手段に出ましたが、H/V信号システムでは主信号機の現示を前置信号機が予告することにより、前置信号機の視認距離からブレーキをかければ主信号機の手前で停止できるという仕組みになっています。

ただしこれでは閉塞間隔を1kmやそれ以上にせねばならず、列車本数を増やしたかった日本とドイツとの鉄道事情の違いが際立っているとも言えます。

さて前置信号機などという訳語をひねり出したのはこれが日本のどの信号とも違う使い方をするからですが、非自動閉塞区間には存在する遠方信号機と通過信号機には似た点があるので、少し比較してみましょう。

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遠方信号機の場所には前置信号機だけ、場内信号機と通過信号機の場所には主信号機と前置信号機、出発信号機の場所には主信号機だけが設置されています。とはいえ、最初の前置信号機は日本の遠方信号機よりもかなり手前にあるはずです。また主信号機間の距離が先に示したブレーキ距離を下回っているような場合には、前置信号機はひとつ前の主信号機と一緒に建植されます。この場合別に速度制限をかけるんでしょうか。

日本の遠方信号機は場内信号機の現示を予告し、通過信号機は出発信号機の現示を予告しています。ドイツの前置信号機はどちらの役目も果たしています。遠方信号機が注意現示のときは場内信号機までの間に速度制限がかかるといった違いもあります。

このように、前置信号機は日本の遠方信号機より幅広い範囲で用いられ、場内と出発以外の閉塞信号機に対しても設置されていますし、もちろん自動閉塞の区間でも用いられています。

逆に日本の遠方信号機のことをドイツ語版のWikipediaではVorsignalとして紹介しているのですが、これは両者ともに含む概念である英語のdistant signalを経由して訳されたために起きた現象であり、同一視するべきではないと考えています。

ところで日本では場内停止、出発進行の場合通過信号機は注意現示ですけど、ドイツではどうなんでしょうね。前置信号機はあくまで主信号機の現示に連動するだけなので、場内停止で前置は進行予告という組み合わせもあるんじゃないかと思うんですが、確証はないです。

ちなみに見ての通りドイツの腕木式信号機は進行現示の時斜め上に腕木が上がり、日本とは逆になります。このほうが機構が壊れた際に自動で停止が現示されフェイルセーフです。日本のものも一応レンズ部分がカウンターウェイトになっていて自動で停止現示になるようになっています。

 

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写真は現役の腕木式信号機の様子。コブレンツのDB-Museumの敷地内から撮影です。この博物館、現役線までの間に柵も仕切りもなにもないんですよ。子供とか目を離してて大丈夫なのかな。

ドイツでは駅構内を中心に腕木式信号機が結構残っていて、別に更新する金がないわけではないと思うので(メンテナンスコストはむしろかかりますし)、恐らく絶対信号機と自動信号機を明示的に区別するためや、入換作業や駅テコ扱いなどの際に逆側からでも信号の現示を確認できるといった利点を重視して残されているんだと思います。

もちろんH/V信号システムは現役のシステムなので、色灯式信号機もあります。というかそれが本題なのですが、その前にこの写真でもやたら存在感のある「W」形の標識など、その他の信号や標識の話を次回はしていきたいと思います。

 

3/4 比較画像を修正(日本のまで右に腕木をつけてしまっていた……)